人類は太古より骨折の治療に「ピエゾ効果」を利用してきたのではないかという研究がなされています。ピエゾ効果とは圧電効果とも言われ、物質に圧力を加えるとその圧力に比例した電荷が生じる現象のことを言います。
太古の昔、今のような医療はもちろん存在しませんでした。しかし生存するためには骨折したとしても、動き続けなければ死を待つのみだったのではないでしょうか。発掘される原始人の骨格に、膨隆した仮骨を形成している骨折のあざが認められていることから、仮骨を早期に骨折部の周囲に形成させて治癒を早めていたという仮説古代の戦士は身体を鍛えるために運動をし、まず逞しい骨格を形成しようとした訓練の形跡が認められているようです。
ピエゾ効果自体は1880年に最初の公開がされていますが、骨の圧電気が応用されるようになったのは近年になってからです。
骨への荷重を加えると湾曲することが明らかにされ、骨が弾性体であると認識されるようになりました。それまで固いものと考えられていた骨への弾力性が認められたことで、骨の振動への研究が詳しく追及され、骨のピエゾ(圧電気)効果の発見へと発展したのです。
超音波を照射することで骨折を早く治すという「超音波骨折治療法」は、厚生労働省の先進医療に認定され、手術を伴う四肢の新鮮骨折(骨折後間もないもの)に対しては、他の保険診療と併用できるようになった。海外で著名なサッカー選手がこの超音波骨折治療法を利用したことでも注目されました。
骨折時にピエゾ効果によって生まれた電気を体内に放置しておくわけにはいかないので、骨を分厚くして容積あたりの電圧を下げるように防御されていきます。口の中では障害になります(※)が、骨折治療においては重要です。
(※)
硬口蓋(こうこうがい)の中央部、もしくは下顎骨の小臼歯部舌側に骨の隆起ができる下顎隆起と口蓋隆起も、いわゆるピエゾ効果によるものではないかといえるのではないでしょうか。(まだはっきりとした原因が分かってはいないのですが、現在では力や遺伝との関連性が指摘されているようです。)「刺激を与えることで強くなる・発達する」イメージといえば、なんとなくおわかりいただけるでしょうか。
骨に圧力をかけてたわませると、曲がった方向にマイナスの、逆に伸びた方はプラスの電気を帯びます。カルシウムは体内でCa2+というイオンの状態で存在し、マイナスの電気に吸着しやすいため、曲がった方にカルシウムが付着しやすくなり少々ゆがんでいたものも自然と真っ直ぐになろうとするという仮説が立てられているようです。
これらに添って考えると、骨折した際にボルトやギブスでがっちり固定して全く負荷をかけないままの方が、骨の癒着が遅くなるということが言えます。必要以上の安定を得るとゆるんでしまうのですね。
ですから、骨ピエゾ効果を有効に使って患部にあそびをつくり、仮骨形成がされやすいようにします。このような考え方は日本古来のほねつぎでも経験的に分かっていたようで、骨折後の変形予防のために柔軟な木片を用いていたり、骨折した骨の一端を手拳で軽く叩いて骨癒合を促進するという療法が伝えられています。
私の住む家の近くに、古くからあるほねつぎを行っている先生がおられるのですが、「松葉づえをついても、足を少し地面に着けて歩行する方が好ましい」と言われたり、骨折しても「包帯でしか固定しない」と言われていたことを、この記事を書きながら思い出しておりました。
もしかしたら、伝統的なものが今後、どんどん科学的に証明され治療に活かされていくようになってくるのではないでしょうか。ほねつぎという素晴らしい技術がさらに認められるようになればと願っております。