異常に気づく
「生きにくさの残る子供」の存在に皆さんは気づいていますか?「生きにくさの残る子供」の存在に皆さんは気づいていますか? 神経系の病気を持っているわけではないのに身体的に不器用な特徴を有する場合があります。そういった特徴を有する子供たちは他の子供に比べ運動スキルの水準が低いうえに、その原因が理解さ・・・
見逃してはならない子供の身体からのサイン
「生きにくさの残る子供」の存在に皆さんは気づいていますか?「生きにくさの残る子供」の存在に皆さんは気づいていますか?
神経系の病気を持っているわけではないのに身体的に不器用な特徴を有する場合があります。そういった特徴を有する子供たちは他の子供に比べ運動スキルの水準が低いうえに、その原因が理解され難いため、学校生活にうまく適応できず、生きにくくなっているという問題があります。
このような特徴を発達性協調障害(Developmental Coordination Disorder:DCD)と呼びます。別名、不器用症候群と呼ばれていたこともある発達障害の一種です。
発達障害者支援法の対象となる障害は、「脳機能障害であってその症状が通常低年齢において発現するもの」とされます。
しかし、DCDを患う患者は大抵の場合、それを説明しうる医学的な問題は見られません。このDCDはアメリカ精神医学会の診断基準(DSM-IV-TR)でPDDの診断を優先するものとされるため、ADHDの約30~50%、学習障害の約50%に併存すると言われるものの、これが併記されていません。DCDの原因はまだ十分理解されていませんが、研究者によると脳の発達の遅れが原因となっているのではないかと考えられています。
(例)発達性協調運動障害につながる原因と考えられるもの
・出生時の体重が2500g未満の低出生体重児
・出産が正期産(妊娠37週0日~妊娠41週6日)以前の早産だった
・出産時に低酸素状態になった
原子反射残存に気づく
ある視覚発達支援センターを受診した小学3年生の男の子の話をご紹介しましょう。この男の子は非常に筆圧が低く、何回も字を書くことを練習しますが一向に上達しません。ノートのマス目から文字がはみ出したり、行が揃わずバラバラといった感じです。また、線に沿ってはさみで紙を切るなどの手先を使った作業や、さらには体全体を使った縄跳びや跳び箱も苦手とし、見ると動作にぎこちなさが目立ちます。
親御さんは何か見え方に問題があるのではないかと視覚発達支援センターを訪れましたが、調べると弱度の遠視性乱視ではあるものの、視力や基本的な目の動きは問題がありません。ただ、左右概念の未発達が観測され、さらに原始反射が強く残っていることが見受けられました。
診察した眼科医はこの男の子の問題は手先の不器用さ、目と手の協応と身体バランスの不良にあると判断し、連動性解除の練習や目と手の協調性と手先の構築性を改善するトレーニングなどを実施しました。これを3ヶ月継続したところ、原始反射は見られなくなり、徐々に文字が上達したそうです。
この例では脳性まひや精神発達遅延などの障害が認められないことから、軽度の発達性協調障害があったと考えられました。
ここで残存が強く見受けられた原始反射は中枢神経の発達と強い関係があると考えられています。脊髄と脳幹が中枢を占める時に起こる自動的、ステレオタイプな反応である原始反射は、新生児の生存には必要不可欠なものと言えます。しかし、中枢神経が成熟するにつれ、自然に消失します。
これにより反射ではなく自分の考えたように体を動かすことができるようになるのです。しかし一般的な期間を超えた原始反射の残存は、姿勢反射の確立を始めとする中枢神経系の発達に悪影響を及ぼす場合があります。今回の例では視覚システムに悪影響が及んだということではないでしょうか。
こうした原始反射が残る子供は乳児期に「這う」という行為をしていなかった、できなかった場合が大半と言われます。「這わない」ということにより、大腰筋・腸腰筋を使って股関節を屈曲できず、肩甲帯を使って上肢を動かす協調運動ができず、脊柱起立筋や腹横筋、腹斜筋などインナーマッスルのトレーニングが十分にできないまま、起立・独歩してしまったということです。
インナーマッスルを使わずに四肢末端の筋肉優位で身体を動かそうとするため、中枢神経系に問題があるような反射的な動きになると考えられます。残存している機能を効率的に利用している運動ですが、それが一般的な社会での行動とは違って見えてしまうのです。
生後の正常な運動発達には、十分な重力に適応する筋収縮の支点を体内に作り出すために、経験を積む必要があります。また、比較的に身体深部にある姿勢固定のための抗重力筋(単関節筋群)と、浅層にあり運動を推進する推進筋(多関節筋群)との筋肉の分化も必要であります。
今回ご紹介した男の子は原始反射残存に関する知識を持った眼科医に出会えたことで障害を克服することができました。子供の不器用さ、あるいは姿勢の悪さ、運動能力の未発達は単に体力の低下やしつけの悪さからだけではないことに注目し、いち早く察知して、このような生きにくさの残る子供に救いの手を伸ばしていかなければなりません。
【参考】東京都福祉保健局「発達障害者支援ハンドブック2015」
※本記事中、意見・考察に亘る部分は、著者の個人的見解であり、著者が所属し、又は過去に所属したいかなる団体の意見等を代表するものではありません。
2016年9月
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