半年ぶりに地球に帰還した宇宙飛行士が砂漠に着陸した直後、医療テントで健康チェックを受け、スタッフに両脇を支えられてヘリコプターに向かっていた。その宇宙飛行士が着陸を見守っていた先輩飛行士に「自身の体が思うように動かない、太ももが上がらない」と、久しぶりの重力への違和感を訴えると、先輩宇宙飛行士は「しばらくそのような状態が続くよ」と言った・・・。
重力の負荷がかからないということは、姿勢の悪さからバランスが乱れ、一部の関節や筋肉に負担が集中し痛みに繋がっている者にとっては、非常に喜ばしい状態ではあります。しかし、宇宙空間のように重力の負荷がかからない状態では、筋力が低下するだけでなく骨粗鬆症に似た現象も起きてくると言われています。
国際宇宙ステーションに滞在中の宇宙飛行士は、毎日2時間の運動を続けても、骨粗鬆症患者の約10倍の速さで骨密度が減少すると言います。この現象は、年齢と共に運動能力が低下したり、骨に負荷がかからなくなりもろくなっていくという状態にどこか似ています。実際、平均寿命が延びていく一方で健康寿命が維持出来ていないばかりではなく、早期より状況が悪くなっている方も多くなってきているように思われます。
骨量のピークはおよそ20~30代だと言われています。また骨や筋肉は適度な運動や刺激を与え、栄養をバランスよく摂取することにより維持されていくものです。しかし、現代社会は便利になり過ぎて運動する機会が減少し、運動器が早くから弱ってきてしまい、宇宙旅行に行ったのと同じような状況の方が増えてきているように感じます。
重力に抵抗すべき骨量、筋力が低下してしまっている場合、サポートを受けながらでも自身の筋力を以って重力に抵抗し続けていくことが健康寿命を維持するためには重要でしょう。先にお話ししたように、運動による刺激を与えないということは、疑似的に無重力化における状態に近づいていっているようなものだからです。
2008年にはNASAの研究で宇宙に長く滞在する宇宙飛行士の体が受ける無重力の影響を再現する目的で、被験者に90日間「寝たきり」でいてもらうという実験も行われていますね。
日本人に多い「寝たきり」というのはここに起因するものと考えられます。実は動きづらくなったとしても、寝たきりにさせてはいけないという考えは、おそらく柔道整復師・鍼灸師・あん摩マッサージ指圧師の方であれば納得なのではないでしょうか。
逆に重力下においては、姿勢などの乱れより重力の負荷がかかる所とかからない所の差が出来ることが問題となります。重力下では、負荷のかかっていない所への積極的アプローチ、また負荷のかかりすぎている所へ負荷軽減を部分的に行うことが必要となってきます。カウンターストレインや吊り下げ機器、さらしや包帯、サポーターを使った関節、局所の負荷軽減などがこれに当たりますね。
一方、もちろん食生活についても気にしていかなければなりません。骨の元になるカルシウムはもちろんの事、吸収を促すビタミンDの摂取や、ビタミンを合成するために日光を適度に浴びることが必要です。また、加工食品にはリンが多く含まれているものもあり、過剰に摂取するとカルシウムの吸収を妨げますし、塩分やカフェインにはカルシウムの尿への排出を促す作用がありますので、加工食品やコーヒーなどの摂りすぎに注意していく必要があるでしょう。
地域の健康を支える人間として、患者様方の人生の最後の日まで、自分の足で歩き続けていただけるようにサポートしていきたいものです。